Keiki Yamada - Annunciation -
この2年ほどの間に、人がいるべき場所にいない風景をさまざまな所で目にしてきました。
その度に、虚無感を感じつつも、むしろ人々が以前に行っていた会話ややり取りを思い出していたのではないでしょうか。そこでは、それぞれが記憶を思い起こしながら、その空間を見つめていたはずです。なんともヴァーチャルな世界を頭の中で作り出せる能力があることを実感できたとも言え、現在はまたヴァーチャルになった空間をリアルに作りたいという欲求で満たされてきた気がします。
そしてあらためて現在、レオナルド・ダ・ヴィンチの受胎告知と対峙したときに感じる清らかな空間に、何を見出すでしょうか。聖告が行われたこの空間には遠くにシナイ山が見えています。ガブリエルはあちらから羽ばたいて来たと思います。
私は普段、油絵が描かれ始めたルネッサンス時代の技法を使って、身の回りの情景を描いています。現代アートには、しばしばあるものを消し去ったり、他のものに置き換えたりという手法が見られます。世界中で人がいなくなる光景が見られたことは、その手法が確実に人々の発想力を促すことになったはずです。
油彩・テンペラ
73.0×162.0cm
劉生は日本人の油画を求めた第一人者であると考えています。日本の風景や、身の回りにある普段の視線、お茶の間の空気を隠すことなく正直に描き残した姿勢は、当に日本人の実直な気質そのものです。
野暮ったさすら感じる、人によってはデロリとまで言わしめたその重たい筆致に込められたものは何だったか。そこには、日本の油画を背負って立たなければいけないという気概があると思います。追随する後進たちへのメッセージが多く込められていると思うのです。
そして、その言葉に反応してしまった自分がいることにいつも悩まされます。聞こえたのだから仕方ない。ありがたくその意志を引き継ぎ、今こそ日本の油画とは何かを定義づけ、世界に知らせていきたいと思います。
油彩・テンペラ
45.5×53.0cm
油彩
30.6×40.0cm
テンペラと油彩を用いた古典絵画技法で精緻な作品を描き上げます。ルネッサンス時代の絵画に用いられたこの技法には、500年以上を経た現在でもその鮮やかさが保たれています。現代を生きる作家が古典技法で描き出すのは、今を生きる私たちにとって身近なモチーフばかりです。
山田の「天使の声は聞こえる」の作品には、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「受胎告知」(1472~1475年頃)に本来描かれているはずの聖母マリアと大天使ガブリエルの姿が見えません。
そこに居たはずの気配を感じ取るか、これから起こるであろう出来事を読み取るか、鑑賞者に様々な場面を想起させます。
それはコロナ禍において人のいない空間を目にすることが増えた現代で、過去の思い出を振り返るのか、これからのことに思いを馳せるのかにも繋がっていくのかもしれません。
古典絵画そのものを用い現代を表現することで、後世の古典たらんと挑み続ける山田啓貴の世界をご覧下さい。
本展覧会では、山田啓貴が影響を受けた作家の一人である岸田劉生の作品も併せて展示いたします。劉生は、デューラーなどの北方ルネッサンスの細密な写実絵画から影響を受け、「内なる美」の表現を突き詰めていきました。山田もまた、その静かな画面には対象のみならず、そこに秘められた情景や記憶をも描き出します。
近代絵画と現代絵画の繋がりをご覧いただきながら、時代を超えた表現を残すべく挑み続ける作家たちの魅力をご堪能下さい。
事前予約不要でどなたでも無料で作品を鑑賞いただけます。
ぜひこの機会にアートを身近に感じてください。
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